ヴィヨンの妻

歌手: 平野綾 • 专辑:あの声優が読むあの名作 • 发布时间:2010-07-29
その日も私は、うわべは、やはり同じ様に、坊やを背負って、お店の勤めに出かけました。
中野のお店の土間で、夫が、酒のはいったコップをテーブルの上に置いて、ひとりで新聞を読んでいました。
コップに午前の陽の光が当って、きれいだと思いました。
「誰もいないの?」
夫は、私のほうを振り向いて見て、
「うん。おやじはまだ仕入れから帰らないし、ばあさんは、
ちょっといままでお勝手のほうにいたようだったけど、いませんか?」
「ゆうべは、おいでにならなかったの?」
「来ました。椿屋のさっちゃんの顔を見ないとこのごろ眠れなくなってね、
十時すぎにここを覗いてみたら、いましがた帰りましたというのでね」
「それで?」
「泊っちゃいましたよ、ここへ。雨はざんざ降っているし」
「あたしも、こんどから、このお店にずっと泊めてもらう事にしようかしら」
「いいでしょう、それも」
「そうするわ。あの家をいつまでも借りてるのは、意味ないもの」
夫は、黙ってまた新聞に眼をそそぎ、
「やあ、また僕の悪口を書いている。
エピキュリアンのにせ貴族だってさ。こいつは、当っていない。
神におびえるエピキュリアン、とでも言ったらよいのに。
さっちゃん、ごらん、ここに僕のことを、人非人なんて書いていますよ。
違うよねえ。僕は今だから言うけれども、去年の暮にね、
ここから五千円持って出たのは、さっちゃんと坊やに、
あのお金で久し振りのいいお正月をさせたかったからです。
人非人でないから、あんな事も仕出かすのです」
私は格別うれしくもなく、
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」
と言いました。
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