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海王社文庫
人間失格
太宰治
朗読 小野大輔
こうこは、どうこの細道じゃ?
こうこは、どうこの細道じゃ?
哀れな童女の歌声が、幻聴のように、かすかに遠くから聞えます。
不幸。この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうが、
しかし、その人たちの不幸は、所謂(いわゆる)世間に対して堂々と抗議が出来、
また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。
しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、
また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、ヒラメならずとも世間の人たち全部、
よくもまあそんな口がきけたものだと呆(あき)れかえるに違いないし、
自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、
自分でもわけがわからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、
どこまでも自から(おのずから)どんどん不幸になるばかりで、
防ぎ止める具体策など無いのです。
自分は立って、取り敢えず何か適当な薬をと思い、
近くの薬屋にはいって、そこの奥さんと顔を見合せ、
瞬間、奥さんは、フラッシュを浴びたみたいに首をあげ眼を見はり、
棒立ちになりました。しかし、その見はった眼には、驚愕の色も嫌悪の色も無く、
ほとんど救いを求めるような、慕うような色があらわれているのでした。
ああ、このひとも、きっと不幸な人なのだ、不幸な人は、
ひとの不幸にも敏感なものなのだから、と思った時、ふと、
その奥さんが松葉杖(まつばづえ)をついて危かしく立っているのに気がつきました。
駈け寄りたい思いを抑えて、なおもその奥さんと顔を見合せているうちに涙が出て来ました。
すると、奥さんの大きい眼からも、涙がぽろぽろとあふれて出ました。
それっきり、一言も口をきかずに、自分はその薬屋から出て、
よろめいてアパートに帰り、ヨシ子に塩水を作らせて飲み、黙って寝て、
翌る日も、風邪気味だと嘘をついて一日一ぱい寝て、
夜、自分の秘密の喀血がどうにも不安でたまらず、起きて、あの薬屋に行き、
こんどは笑いながら、奥さんに、実に素直に今までのからだ具合いを告白し、相談しました。
「お酒をおよしにならなければ」
自分たちは、肉身のようでした。
「アル中になっているかも知れないんです。いまでも飲みたい」
「いけません。私の主人も、テーベのくせに、菌を酒で殺すんだなんて言って、
酒びたりになって、自分から寿命をちぢめました」
「不安でいけないんです。こわくて、とても、だめなんです」
「お薬を差し上げます。お酒だけは、およしなさい」
奥さん「未亡人で、男の子がひとり、それは千葉だかどこだかの医大にはいって、
間もなく父と同じ病いにかかり、休学入院中で、
家には中風の舅(しゅうと)が寝ていて、奥さん自身は五歳の折、
小児(しょうに)痲痺(まひ)で片方の脚が全然だめなのでした」は、松葉杖をコトコトと突きながら、
自分のためにあっちの棚、こっちの引出し、いろいろと薬品を取そろえてくれるのでした。
これは、造血剤。
これは、ヴィタミンの注射液。注射器は、これ。
これは、カルシウムの錠剤。胃腸をこわさないように、ジアスターゼ。
これは、何。これは、何、と五、六種の薬品の説明を愛情こめてしてくれたのですが、
しかし、この不幸な奥さんの愛情もまた、自分にとって深すぎました。
最後に奥さんが、これは、どうしても、なんとしてもお酒を飲みたくて、
たまらなくなった時のお薬、と言って素早く紙に包んだ小箱。
モルヒネの注射液でした。
酒よりは、害にならぬと奥さんも言い、自分もそれを信じて、
また一つには、酒の酔いもさすがに不潔に感ぜられて来た矢先でもあったし、
久し振りにアルコールというサタンからのがれる事の出来る喜びもあり、
何の躊躇(ちゅうちょ)も無く、自分は自分の腕に、そのモルヒネを注射しました。
不安も、焦燥(しょうそう)も、はにかみも、綺麗(きれい)に除去せられ、
自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして、その注射をすると自分は、
からだの衰弱も忘れて、漫画の仕事に精が出て、
自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。
一日一本のつもりが、二本になり、四本になった頃には、
自分はもうそれが無ければ、仕事が出来ないようになっていました。
「いけませんよ、中毒になったら、そりゃもう、たいへんです」
薬屋の奥さんにそう言われると、
自分はもうかなり{可成り}の中毒患者になってしまったような気がして来て、
(自分は、ひとの暗示に実にもろくひっかかるたちなのです。
このお金は使っちゃいけないよ、と言っても、お前の事だものなあ、
なんて言われると、何だか使わないと悪いような、期待にそむくような、
へんな錯覚が起って、必ずすぐにそのお金を使ってしまうのでした)その中毒の不安のため、
かえって薬品をたくさん求めるようになったのでした。
「たのむ! もう一箱。勘定は月末にきっと払いますから」
「勘定なんて、いつでもかまいませんけど、警察のほうが、うるさいのでねえ」
ああ、いつでも自分の周囲には、何やら、濁って暗く、うさん臭い日蔭者の気配がつきまとうのです。
「そこを何とか、ごまかして、たのむよ、奥さん。キスしてあげよう」
奥さんは、顔を赤らめます。
自分は、いよいよつけ込み、
「薬が無いと仕事がちっとも、はかどらないんだよ。
僕には、あれは強精剤みたいなものなんだ」
「それじゃ、いっそ、ホルモン注射がいいでしょう」
「ばかにしちゃいけません。お酒か、そうでなければ、
あの薬か、どっちかで無ければ仕事が出来ないんだ」
「お酒は、いけません」
「そうでしょう? 僕はね、あの薬を使うようになってから、
お酒は一滴も飲まなかった。おかげで、からだの調子が、とてもいいんだ。
僕だって、いつまでも、下手くそな漫画などをかいているつもりは無い、
これから、酒をやめて、からだを直して、勉強して、きっと偉い絵画きになって見せる。
いまが大事なところなんだ。だからさ、ね、おねがい。キスしてあげようか」
奥さんは笑い出し、
「困るわねえ。中毒になっても知りませんよ」
コトコトと松葉杖の音をさせて、その薬品を棚から取り出し、
「一箱は、あげられませんよ。すぐ使ってしまうのだもの。半分ね」
「ケチだなあ、まあ、仕方が無いや」
家へ帰って、すぐに一本、注射をします。
「痛くないんですか?」
ヨシ子は、おどおど自分にたずねます。
「それあ痛いさ。でも、仕事の能率をあげるためには、
いやでもこれをやらなければいけないんだ。
僕はこの頃、とても元気だろう? さあ、仕事だ。仕事、仕事」とはしゃぐのです。
深夜、薬屋の戸をたたいた事もありました。
寝巻姿で、コトコト松葉杖をついて出て来た奥さんに、
いきなり抱きついてキスして、泣く真似をしました。
奥さんは、黙って自分に一箱、手渡しました。
薬品もまた、焼酎同様、いや、それ以上に、いまわしく不潔なものだと、
つくづく思い知った時には、既に自分は完全な中毒患者になっていました。
真に、恥知らずの極(きわみ)でした。自分はその薬品を得たいばかりに、
またも春画のコピイをはじめ、そうして、
あの薬屋の不具の奥さんと文字どおりの醜関係をさえ結びました。
死にたい、いっそ、死にたい、もう取返しがつかないんだ、どんな事をしても、
何をしても、駄目になるだけなんだ、恥の上塗りをするだけなんだ、
自転車で青葉の滝など、自分には望むべくも無いんだ、ただけがらわしい罪にあさましい罪が重なり、
苦悩が増大し強烈になるだけなんだ、死にたい、死ななければならぬ、
生きているのが罪の種なのだ、などと思いつめても、やっぱり、
アパートと薬屋の間を半狂乱の姿で往復しているばかりなのでした。
いくら仕事をしても、薬の使用量もしたがってふえているので、
薬代の借りがおそろしいほどの額にのぼり、奥さんは、自分の顔を見ると涙を浮べ、自分も涙を流しました。
地獄。この地獄からのがれるための最後の手段、これが失敗したら、
あとはもう首をくくるばかりだ、という神の存在を賭ける(かける)ほどの決意を以って(もって)、
自分は、故郷の父あてに長い手紙を書いて、
自分の実情一さいを(女の事は、さすがに書けませんでしたが)告白する事にしました。
しかし、結果は一そう悪く、待てど暮せど何の返事も無く、
自分はその焦燥と不安のために、かえって薬の量をふやしてしまいました。
今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、
ヒラメが、悪魔の勘で(かぎつけた)嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。
「お前は、喀血したんだってな」
堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、
いままで見た事も無いくらいに優しく(ほほえみ)微笑みました。
その優しい微笑が、ありがたくて、うれしくて、自分はつい顔をそむけて涙を流しました。
そうして彼のその優しい微笑一つで、自分は完全に打ち破られ、葬り去られてしまったのです。
自分は自動車に乗せられました。とにかく入院しなければならぬ、
あとは自分たちにまかせなさい、とヒラメも、しんみりした口調で、
(それは慈悲深いとでも形容したいほど、もの静かな口調でした)自分にすすめ、
自分は意志も判断も何も無い者の如く、
ただメソメソ泣きながら唯々諾々と二人の言いつけに従うのでした。
ヨシ子もいれて四人、自分たちは、ずいぶん永いこと自動車にゆられ、
あたりが薄暗くなった頃、森の中の大きい病院の、玄関に到着しました。
サナトリアムとばかり思っていました。
自分は若い医師のいやに物やわらかな、鄭重(ていちょう)な診察を受け、それから医師は、
「まあ、しばらくここで静養するんですね」
と、まるで、はにかむように微笑して言い、ヒラメと堀木とヨシ子は、
自分ひとりを置いて帰ることになりましたが、
ヨシ子は着換の衣類をいれてある風呂敷包を自分に手渡し、
それから黙って帯の間から注射器と使い残りのあの薬品を差し出しました。
やはり、強精剤だとばかり思っていたのでしょうか。
「いや、もう要らない」
実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、
自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。
自分の不幸は、拒否の能力の無い者の不幸でした。すすめられて拒否すると、
相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。
けれども、自分はその時、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、
実に自然に拒否しました。ヨシ子の謂わば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。
自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。
けれども、自分はそれからすぐに、あのはにかむような微笑をする若い医師に案内せられ、
ある病棟にいれられて、ガチャンと鍵(かぎ)をおろされました。脳病院でした。
女のいないところへ行くという、あのジアールを飲んだ時の自分の愚かなうわごとが、
まことに奇妙に実現せられたわけでした。その病棟には、男の狂人ばかりで、
看護人も男でしたし、女はひとりもいませんでした。
いまはもう自分は、罪人どころではなく、狂人でした。
いいえ、断じて自分は狂ってなどいなかったのです。
一瞬間といえども、狂った事は無いんです。けれども、ああ、狂人は、たいてい自分の事をそう言うものだそうです。
つまり、この病院にいれられた者は気違い、いれられなかった者は、ノーマルという事になるようです。
神に問う。無抵抗は罪なりや?
堀木のあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて自動車に乗り、
そうしてここに連れて来られて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、
自分はやっぱり狂人、いや、癈人(はいじん)という刻印を額に打たれる事でしょう。
人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
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[00:01.18]海王社文庫
[00:04.33]人間失格
[00:07.18]太宰治
[00:09.24]朗読 小野大輔
[00:13.33]
[00:14.77]こうこは、どうこの細道じゃ?
[00:19.60]こうこは、どうこの細道じゃ?
[00:24.14]哀れな童女の歌声が、幻聴のように、かすかに遠くから聞えます。
[00:33.03]不幸。この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうが、
[00:45.29]しかし、その人たちの不幸は、所謂(いわゆる)世間に対して堂々と抗議が出来、
[00:53.37]また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。
[00:59.95]しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、
[01:09.64]また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、ヒラメならずとも世間の人たち全部、
[01:18.65]よくもまあそんな口がきけたものだと呆(あき)れかえるに違いないし、
[01:23.59]自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、
[01:31.91]自分でもわけがわからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、
[01:39.17]どこまでも自から(おのずから)どんどん不幸になるばかりで、
[01:44.21]防ぎ止める具体策など無いのです。
[01:47.81]自分は立って、取り敢えず何か適当な薬をと思い、
[01:54.55]近くの薬屋にはいって、そこの奥さんと顔を見合せ、
[01:59.87]瞬間、奥さんは、フラッシュを浴びたみたいに首をあげ眼を見はり、
[02:05.91]棒立ちになりました。しかし、その見はった眼には、驚愕の色も嫌悪の色も無く、
[02:15.13]ほとんど救いを求めるような、慕うような色があらわれているのでした。
[02:21.75]ああ、このひとも、きっと不幸な人なのだ、不幸な人は、
[02:29.85]ひとの不幸にも敏感なものなのだから、と思った時、ふと、
[02:35.55]その奥さんが松葉杖(まつばづえ)をついて危かしく立っているのに気がつきました。
[02:41.81]駈け寄りたい思いを抑えて、なおもその奥さんと顔を見合せているうちに涙が出て来ました。
[02:51.34]すると、奥さんの大きい眼からも、涙がぽろぽろとあふれて出ました。
[02:59.02]それっきり、一言も口をきかずに、自分はその薬屋から出て、
[03:07.25]よろめいてアパートに帰り、ヨシ子に塩水を作らせて飲み、黙って寝て、
[03:14.64]翌る日も、風邪気味だと嘘をついて一日一ぱい寝て、
[03:20.52]夜、自分の秘密の喀血がどうにも不安でたまらず、起きて、あの薬屋に行き、
[03:29.67]こんどは笑いながら、奥さんに、実に素直に今までのからだ具合いを告白し、相談しました。
[03:39.80]「お酒をおよしにならなければ」
[03:42.71]自分たちは、肉身のようでした。
[03:47.11]「アル中になっているかも知れないんです。いまでも飲みたい」
[03:52.89]「いけません。私の主人も、テーベのくせに、菌を酒で殺すんだなんて言って、
[04:00.16]酒びたりになって、自分から寿命をちぢめました」
[04:04.51]「不安でいけないんです。こわくて、とても、だめなんです」
[04:12.15]「お薬を差し上げます。お酒だけは、およしなさい」
[04:17.41]奥さん「未亡人で、男の子がひとり、それは千葉だかどこだかの医大にはいって、
[04:26.52]間もなく父と同じ病いにかかり、休学入院中で、
[04:31.72]家には中風の舅(しゅうと)が寝ていて、奥さん自身は五歳の折、
[04:37.65]小児(しょうに)痲痺(まひ)で片方の脚が全然だめなのでした」は、松葉杖をコトコトと突きながら、
[04:46.24]自分のためにあっちの棚、こっちの引出し、いろいろと薬品を取そろえてくれるのでした。
[04:54.64] これは、造血剤。
[04:58.73] これは、ヴィタミンの注射液。注射器は、これ。
[05:05.16] これは、カルシウムの錠剤。胃腸をこわさないように、ジアスターゼ。
[05:11.83] これは、何。これは、何、と五、六種の薬品の説明を愛情こめてしてくれたのですが、
[05:20.46] しかし、この不幸な奥さんの愛情もまた、自分にとって深すぎました。
[05:27.97] 最後に奥さんが、これは、どうしても、なんとしてもお酒を飲みたくて、
[05:35.44] たまらなくなった時のお薬、と言って素早く紙に包んだ小箱。
[05:41.51] モルヒネの注射液でした。
[05:44.91] 酒よりは、害にならぬと奥さんも言い、自分もそれを信じて、
[05:51.77] また一つには、酒の酔いもさすがに不潔に感ぜられて来た矢先でもあったし、
[05:58.43] 久し振りにアルコールというサタンからのがれる事の出来る喜びもあり、
[06:04.13] 何の躊躇(ちゅうちょ)も無く、自分は自分の腕に、そのモルヒネを注射しました。
[06:12.31] 不安も、焦燥(しょうそう)も、はにかみも、綺麗(きれい)に除去せられ、
[06:18.63] 自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして、その注射をすると自分は、
[06:28.36] からだの衰弱も忘れて、漫画の仕事に精が出て、
[06:32.60] 自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。
[06:39.69] 一日一本のつもりが、二本になり、四本になった頃には、
[06:47.95] 自分はもうそれが無ければ、仕事が出来ないようになっていました。
[06:52.81] 「いけませんよ、中毒になったら、そりゃもう、たいへんです」
[06:59.19] 薬屋の奥さんにそう言われると、
[07:01.89] 自分はもうかなり{可成り}の中毒患者になってしまったような気がして来て、
[07:07.12] (自分は、ひとの暗示に実にもろくひっかかるたちなのです。
[07:12.96] このお金は使っちゃいけないよ、と言っても、お前の事だものなあ、
[07:19.48] なんて言われると、何だか使わないと悪いような、期待にそむくような、
[07:26.10] へんな錯覚が起って、必ずすぐにそのお金を使ってしまうのでした)その中毒の不安のため、
[07:36.66] かえって薬品をたくさん求めるようになったのでした。
[07:41.35] 「たのむ! もう一箱。勘定は月末にきっと払いますから」
[07:47.78] 「勘定なんて、いつでもかまいませんけど、警察のほうが、うるさいのでねえ」
[07:55.72] ああ、いつでも自分の周囲には、何やら、濁って暗く、うさん臭い日蔭者の気配がつきまとうのです。
[08:06.84] 「そこを何とか、ごまかして、たのむよ、奥さん。キスしてあげよう」
[08:13.27] 奥さんは、顔を赤らめます。
[08:16.81] 自分は、いよいよつけ込み、
[08:19.87] 「薬が無いと仕事がちっとも、はかどらないんだよ。
[08:24.35] 僕には、あれは強精剤みたいなものなんだ」
[08:29.32] 「それじゃ、いっそ、ホルモン注射がいいでしょう」
[08:32.91] 「ばかにしちゃいけません。お酒か、そうでなければ、
[08:36.54] あの薬か、どっちかで無ければ仕事が出来ないんだ」
[08:40.88] 「お酒は、いけません」
[08:44.57] 「そうでしょう? 僕はね、あの薬を使うようになってから、
[08:49.21] お酒は一滴も飲まなかった。おかげで、からだの調子が、とてもいいんだ。
[08:55.71] 僕だって、いつまでも、下手くそな漫画などをかいているつもりは無い、
[09:01.93] これから、酒をやめて、からだを直して、勉強して、きっと偉い絵画きになって見せる。
[09:08.98] いまが大事なところなんだ。だからさ、ね、おねがい。キスしてあげようか」
[09:17.31] 奥さんは笑い出し、
[09:20.21] 「困るわねえ。中毒になっても知りませんよ」
[09:25.77] コトコトと松葉杖の音をさせて、その薬品を棚から取り出し、
[09:31.56] 「一箱は、あげられませんよ。すぐ使ってしまうのだもの。半分ね」
[09:40.51] 「ケチだなあ、まあ、仕方が無いや」
[09:46.11] 家へ帰って、すぐに一本、注射をします。
[09:52.00] 「痛くないんですか?」
[09:55.19] ヨシ子は、おどおど自分にたずねます。
[09:59.45] 「それあ痛いさ。でも、仕事の能率をあげるためには、
[10:04.96] いやでもこれをやらなければいけないんだ。
[10:08.67] 僕はこの頃、とても元気だろう? さあ、仕事だ。仕事、仕事」とはしゃぐのです。
[10:18.38] 深夜、薬屋の戸をたたいた事もありました。
[10:23.75] 寝巻姿で、コトコト松葉杖をついて出て来た奥さんに、
[10:28.95] いきなり抱きついてキスして、泣く真似をしました。
[10:34.00] 奥さんは、黙って自分に一箱、手渡しました。
[10:39.29] 薬品もまた、焼酎同様、いや、それ以上に、いまわしく不潔なものだと、
[10:48.44] つくづく思い知った時には、既に自分は完全な中毒患者になっていました。
[10:55.09] 真に、恥知らずの極(きわみ)でした。自分はその薬品を得たいばかりに、
[11:04.29] またも春画のコピイをはじめ、そうして、
[11:08.07] あの薬屋の不具の奥さんと文字どおりの醜関係をさえ結びました。
[11:15.00] 死にたい、いっそ、死にたい、もう取返しがつかないんだ、どんな事をしても、
[11:26.03] 何をしても、駄目になるだけなんだ、恥の上塗りをするだけなんだ、
[11:31.40] 自転車で青葉の滝など、自分には望むべくも無いんだ、ただけがらわしい罪にあさましい罪が重なり、
[11:40.26] 苦悩が増大し強烈になるだけなんだ、死にたい、死ななければならぬ、
[11:48.10] 生きているのが罪の種なのだ、などと思いつめても、やっぱり、
[11:56.08] アパートと薬屋の間を半狂乱の姿で往復しているばかりなのでした。
[12:02.81] いくら仕事をしても、薬の使用量もしたがってふえているので、
[12:08.92] 薬代の借りがおそろしいほどの額にのぼり、奥さんは、自分の顔を見ると涙を浮べ、自分も涙を流しました。
[12:21.69] 地獄。この地獄からのがれるための最後の手段、これが失敗したら、
[12:31.29] あとはもう首をくくるばかりだ、という神の存在を賭ける(かける)ほどの決意を以って(もって)、
[12:38.52] 自分は、故郷の父あてに長い手紙を書いて、
[12:43.41] 自分の実情一さいを(女の事は、さすがに書けませんでしたが)告白する事にしました。
[12:53.44] しかし、結果は一そう悪く、待てど暮せど何の返事も無く、
[13:01.07] 自分はその焦燥と不安のために、かえって薬の量をふやしてしまいました。
[13:08.27] 今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、
[13:19.00] ヒラメが、悪魔の勘で(かぎつけた)嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。
[13:26.92] 「お前は、喀血したんだってな」
[13:32.80] 堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、
[13:36.63] いままで見た事も無いくらいに優しく(ほほえみ)微笑みました。
[13:41.29] その優しい微笑が、ありがたくて、うれしくて、自分はつい顔をそむけて涙を流しました。
[13:52.35] そうして彼のその優しい微笑一つで、自分は完全に打ち破られ、葬り去られてしまったのです。
[14:02.85] 自分は自動車に乗せられました。とにかく入院しなければならぬ、
[14:11.44] あとは自分たちにまかせなさい、とヒラメも、しんみりした口調で、
[14:17.02] (それは慈悲深いとでも形容したいほど、もの静かな口調でした)自分にすすめ、
[14:25.88] 自分は意志も判断も何も無い者の如く、
[14:30.93] ただメソメソ泣きながら唯々諾々と二人の言いつけに従うのでした。
[14:37.54] ヨシ子もいれて四人、自分たちは、ずいぶん永いこと自動車にゆられ、
[14:45.25] あたりが薄暗くなった頃、森の中の大きい病院の、玄関に到着しました。
[14:53.20] サナトリアムとばかり思っていました。
[14:57.56] 自分は若い医師のいやに物やわらかな、鄭重(ていちょう)な診察を受け、それから医師は、
[15:06.54] 「まあ、しばらくここで静養するんですね」
[15:11.55] と、まるで、はにかむように微笑して言い、ヒラメと堀木とヨシ子は、
[15:18.10] 自分ひとりを置いて帰ることになりましたが、
[15:21.46] ヨシ子は着換の衣類をいれてある風呂敷包を自分に手渡し、
[15:27.19] それから黙って帯の間から注射器と使い残りのあの薬品を差し出しました。
[15:35.03] やはり、強精剤だとばかり思っていたのでしょうか。
[15:41.36] 「いや、もう要らない」
[15:45.25] 実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、
[15:53.25] 自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。
[16:01.19] 自分の不幸は、拒否の能力の無い者の不幸でした。すすめられて拒否すると、
[16:09.99] 相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。
[16:20.43] けれども、自分はその時、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、
[16:28.70] 実に自然に拒否しました。ヨシ子の謂わば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。
[16:38.89] 自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。
[16:46.48] けれども、自分はそれからすぐに、あのはにかむような微笑をする若い医師に案内せられ、
[16:55.10] ある病棟にいれられて、ガチャンと鍵(かぎ)をおろされました。脳病院でした。
[17:04.27] 女のいないところへ行くという、あのジアールを飲んだ時の自分の愚かなうわごとが、
[17:13.22] まことに奇妙に実現せられたわけでした。その病棟には、男の狂人ばかりで、
[17:22.89] 看護人も男でしたし、女はひとりもいませんでした。
[17:28.51] いまはもう自分は、罪人どころではなく、狂人でした。
[17:36.15] いいえ、断じて自分は狂ってなどいなかったのです。
[17:41.84] 一瞬間といえども、狂った事は無いんです。けれども、ああ、狂人は、たいてい自分の事をそう言うものだそうです。
[17:57.13] つまり、この病院にいれられた者は気違い、いれられなかった者は、ノーマルという事になるようです。
[18:06.35] 神に問う。無抵抗は罪なりや?
[18:13.84] 堀木のあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて自動車に乗り、
[18:25.28] そうしてここに連れて来られて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、
[18:36.02] 自分はやっぱり狂人、いや、癈人(はいじん)という刻印を額に打たれる事でしょう。
[18:46.59] 人間、失格。
[18:51.65] もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
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失去做人的资格
太宰治
朗读 小野大辅
这儿是何方的小道?
这儿是何方的小道?
一个女孩哀婉的歌声恍若幻听一般隐隐约约地从远处传了过来。
不幸。在这个世上不乏不幸之人,不,尽是些不幸之人。即使这么说也绝非过激之辞。
但是,他们的不幸却可以堂而皇之地向世间发出抗议,
并且,“世间”也很容易理解和同情他们的抗议。
可是,我的不幸却全部缘于自己的罪恶,所以不可能向任何人进行抗议。
假如我斗胆结巴着说出某一句近于抗议的话,不仅是“比目鱼”,甚至世间的所有人
都无疑会因我口出狂言而惊讶无比的。
到底我是像俗话所说的那样“刚愎自用”呢?还是与此相反,显得过去怯懦萎缩呢?
这一点连我自己都弄不明白。 总之,我是罪孽的凝固体,
所以,我只能变得越来越不幸,
而这是无法阻止和防范的。
我站起来,琢磨着应该去弄点什么药调养一下,
于是走进附近的一家药房。就在我与药房老板娘照面
一瞬间,她好像被镁光灯的闪光照得发了怔,抬起头圆睁着双眼,
呆呆地伫立在那里。那双睁圆的眼睛里既没有惊愕也没有厌恶
而是流露出像是求救又像是充满了渴慕般的目光
唉,她一定也是个不幸的人,因为不幸的人
总是对别人的不幸感受特别敏锐。我正如此想着,猛然注意
注意老板娘原来是手撑拐杖、颤巍巍地勉强站立的,
我遏制住自己抢步朝她跑过去的念头,只是和她对望着,此时我的泪水禁不住涌出眼眶,
她那双睁得大大的眼睛里,也洒下了两行泪。
随后,我一语不发走出药房,
踉踉跄跄回到公寓,让由子冲了杯盐水给我喝下,然后默默地睡下。
第二天我谎称有点感冒,在床上躺了一整天。
到了晚上,我对自己咳血的事情实在感到不安,于是爬起来,又去了那家药房。
“你必须戒酒。”
我们就像是一家人似的坦率不客套。
“我大概是得了酒精依存症了,就这会儿我还想喝酒哩。”
“不可以!我丈夫就是,明明得了结核病,却偏说要用酒来杀菌,
成天都泡在酒里,结果自己缩短了自己的寿命。”
“我真的很担心,我已经害怕得不行了。”
“我这就拿药给你。不过,唯独这酒,你必须得戒掉。”
老板娘(她是个寡妇,膝下有一个男孩,考上了千叶还是什么地方的医科大学,
但没过不久就患上和他父亲同样的病,现在休学待在医院,
家里还躺着个中风的公公,而她自己五岁上下时
因为患小儿麻痹症,有一条腿完全无法站立)撑着丁字拐,在地上发出咚咚的响声,。
翻箱倒柜地为我找出各种药品来
这是造血剂。
这是维生素注射液,注射器在这里。
这个是钙片。这是淀粉酶,可以帮助消化,改善肠胃不适。
这是……这个是……她充满爱心地向我介绍了五六种药物的功效。
然而这位不幸的夫人,她的爱心对我来说过于沉重了。
最后她对我说:“要是你忍不住、实在想喝酒的时候,
就用这个药。”说罢,迅速将一小盒药用纸包了起来。
原来是吗啡注射液。
老板娘告诉我说,这药的危害至少没有酒来得厉害。我对此深信不疑
加之当时我自己对酗酒产生了一种肮脏感,
倘若能够摆脱酒精这个恶魔的长期纠缠自然不亦乐乎,
于是毫不踌躇便将吗啡注射进了自己的手臂。
不安、焦躁、羞臊等等,全都一扫而空,
我摇身一变成了性情开朗、喜欢高谈阔论的男人。要注射一针,
顿时就会忘掉身体的衰弱,全身心地投入到工作中,一面作着漫画,
一面思如泉涌,脑子里不断闪现出各种稀奇古怪的创意。
先是一天注射一针,后来渐渐变为两针,最后增加到一天四针,
而一旦缺少了它,我便无法工作了。
“这样不行啊!要是上了瘾,那就不得了啦!”
听药房老板娘这么说,
我登时觉得自己已经变成了重度瘾君子
(我这个人生性脆弱,极易受到别人暗示。
例如有人说,就算我告诉你这笔钱花不得,那也无济于事,因为这毕竟是你自己的事呀……
听到这话,似乎不花掉这笔钱反倒有错,反倒会辜负对方的期待,
我会产生一种错觉,于是必定要很快将它花掉)。基于对上瘾的害怕不安,
我对药物的需渴变得越发厉害。
“求求你,再给我一盒!月底我一定会付钱的。”
“钱嘛,什么时候付倒都没关系,只是警察管得很紧呢。”
哦,原来我四周始终围裹着某种浑浊而灰暗的、见不得人的可疑气氛。
“那就请你无论如何帮我搪塞过去,求求你,夫人。让我吻你一下!”
老板娘登时羞红了脸。
我赶紧趁势央求:
“假如没有这药的话,我就完全没法像模像样地工作了。
对我来说,那就像是强精提欲的激素一样。”
“那还不如直接注射荷尔蒙好了。”
“你别拿我寻开心了。反正我要么借助酒,没酒的话
就得靠那种药,否则我真的没法工作。”
“酒可不行。”
“所以说嘛!自打我用了那种药,
就一直滴酒未沾啊。多亏了它,我现在身体状况好得不得了哩。
我可不想自己永远只能画那些下三流的漫画,
从今往后,我一定彻底把酒戒了,调养好身体,发奋钻研,一定要成为一个伟大的画家!
眼下正是最关键的时刻,所以拜托你,当我求你啦。让我吻你一下吧!”
老板娘扑哧笑了起来:
“你真让我为难。要是真上了瘾,我可不管哦。”
她咚咚咚地撑着拐杖,从药品架上取下那药,说道:
“不能给你一整盒,你会马上用完的。给你一半吧。”
“真小气。算了,就一半吧。”
回到家里,我立即注射了一针。
“不痛吗?”
由子战战兢兢地问我。
“当然痛喽。不过,为了提高工作效率,
就算不情愿也得这样做啊。
我这阵子精神不错吧?好了,开始工作了!工作、工作!”我兴奋地嚷着。
有几次,我还深更半夜跑去药房叩门。
老板娘身上裹着睡衣,咚咚咚地撑着拐杖出来开门。
我猛地扑上去,抱住她,吻她,同时还装出一副痛苦欲绝的涕泣状。
老板娘不发一语,默默地递给我一盒药。
药品与烧酒一样,不,甚至是比烧酒更可恨更肮脏的东西
当我深切体会到这一点的时候,已经变成一个彻头彻尾的瘾君子了。
真是无耻之极。为了得到那药,
我重又开始仿制春宫画,并且
与那家药房的残疾老板娘建立了一种真正称得上丑恶的关系。
我想死。比任何时候都更想去死。我已经回不了头了。无论我做什么,
无论我怎样做,都是徒劳的,只会丑上加丑,避了坑反而落了井。
我已不配奢望骑自行车去瀑布游玩之类的事情,唯有在污秽的罪恶上不断堆叠卑劣的罪恶,
让苦恼越来越多,越来越强烈。我想死,我只有死路一条,
苟活下去便是万恶之根源。——尽管我仿佛钻进了牛角尖,无论如何都摆脱不掉这种念头,
却依旧身不由己地频频往返于公寓与药房之间,活脱脱一副半狂半疯的模样。
无论我怎样拼命工作,由于药物用量也随之增大,
积欠的药费已经高得吓人。老板娘每次看到我就会眼中泛泪,我自己也禁不住潸然泪下。
地狱。我想到一个挣脱出地狱的最后手段。假使连这个方法也归于失败的话,
我便只有勒颈上吊一条路了。我想赌一赌看这世上神明是否真的存在,于是抱定决心,
写了封长信寄给老家的父亲,
坦承自己的所有实情(有关女人的事,终究还是无法落笔)。
不想结果更惨,我引颈期盼,左等右等却一直杳无音信。
焦灼与不安反而更使我加大了用药剂量。
今夜,索性一口气注射十针,然后跳进大河里,一了百了——就在我暗下决意的那天下午,
“比目鱼”就像凭借恶魔的直觉嗅到了什么似的,带着堀木出现在我面前。
“听说你咳血了?”
堀木盘腿坐在我面前,问我。
他脸上荡漾起一种我从未见过的充满柔情的微笑。
那温煦柔善的微笑使我既感激又兴奋,我情不自禁地背过脸潸然泪下。
仅仅因为他那温柔的微笑,我便被彻底击败,然后便被强行从这人世间沉埋。
我被送上汽车。你必须先得住院治疗
,后续的事情交给我们来办就是了——“比目鱼”用平静的口吻规劝我
(那口吻平静得我甚至想用“慈悲满怀”来形容)。
我俨然像一个毫无意志、毫无判断力的人,
只知道嘤嘤啜泣,最终还是唯唯诺诺地听从他们两人的安排。
连同由子在内,我们四人坐在汽车上颠簸了许久,
直到四周天色有些昏暗的时候,才抵达一座位于森林中的大医院门口。
我以为这是一所结核病疗养院。
我接受了一名年轻医生极为温柔而周到的检查,
“好了,你就在这里静养一阵子吧。”
他略带腼腆地微笑着对我说,比目鱼”、堀木和由子
撇下我一个人回去了。
走之前由子递给我一个装有换洗衣服的包袱,
又一声不响从腰带间取出注射器和没有用完的药塞给我。
看来她还真的以为那是强精提欲的激素呢。
“不,我已经不需要了。”
这绝对是一件难得的事。拒绝别人的劝诱
说是我生平以来唯一的一次,也一点不为过。
我的不幸,是因为没有拒绝的能力,因此一旦别人劝诱,我便觉得假如拒绝的话,
会在对方的心里和自己的心里都留下一道显而易见、永远也无法修补的裂痕。我已习惯畏服于这种恐惧。
但当时,曾经令我疯狂渴求的吗啡,
我却极其自然地拒绝了,或许是被由子那种“如神明般的无知”打动了吧。
那一瞬间,我应该已经摆脱掉毒瘾的纠缠了吧?
很快,我被那名挂着腼腆微笑的年轻医生领着,
进入一栋病房,随即大门被哐啷一声上了锁。这里是疯人院。
“到没有女人的地方去”,我在服用巴比妥后说出来的愚痴的呓语竟然奇妙地变成了现实
这栋病房里全都是男性精神病患者,
连看护也是男的,没有一个女人。
如今我非但是一个罪人,还成了一个疯子。
不,我绝对没有发疯!
即使是瞬间片刻,我也不曾疯过。但是,听说所有疯子都会这样说自己的。
换句话说,凡是被关进这所医院的人全是疯子,而没被关进来的则是正常人。
我问神明:难道不抵抗也是罪过吗?
面对堀木那不可思议的美丽微笑,我感激涕零,失去了判断,毫无反抗,坐上汽车
被带进这里,从而变成了一个疯子。即使从这里出去,
我还是会被人在额头烙上“疯子”的印记,不,是“废人”的印记。
我已丧失做人的资格。
我已经彻底变成一个非人了。
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[by:厚生劳动省大臣加藤胜信]
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[00:04.33]失去做人的资格
[00:07.18]太宰治
[00:09.24]朗读 小野大辅
[00:14.77]这儿是何方的小道?
[00:19.60]这儿是何方的小道?
[00:24.14]一个女孩哀婉的歌声恍若幻听一般隐隐约约地从远处传了过来。
[00:33.03]不幸。在这个世上不乏不幸之人,不,尽是些不幸之人。即使这么说也绝非过激之辞。
[00:45.29]但是,他们的不幸却可以堂而皇之地向世间发出抗议,
[00:53.37]并且,“世间”也很容易理解和同情他们的抗议。
[00:59.95]可是,我的不幸却全部缘于自己的罪恶,所以不可能向任何人进行抗议。
[01:09.64]假如我斗胆结巴着说出某一句近于抗议的话,不仅是“比目鱼”,甚至世间的所有人
[01:18.65]都无疑会因我口出狂言而惊讶无比的。
[01:23.59]到底我是像俗话所说的那样“刚愎自用”呢?还是与此相反,显得过去怯懦萎缩呢?
[01:31.91]这一点连我自己都弄不明白。 总之,我是罪孽的凝固体,
[01:39.17]所以,我只能变得越来越不幸,
[01:44.21]而这是无法阻止和防范的。
[01:47.81]我站起来,琢磨着应该去弄点什么药调养一下,
[01:54.55]于是走进附近的一家药房。就在我与药房老板娘照面
[01:59.87]一瞬间,她好像被镁光灯的闪光照得发了怔,抬起头圆睁着双眼,
[02:05.91]呆呆地伫立在那里。那双睁圆的眼睛里既没有惊愕也没有厌恶
[02:15.13]而是流露出像是求救又像是充满了渴慕般的目光
[02:21.75]唉,她一定也是个不幸的人,因为不幸的人
[02:29.85]总是对别人的不幸感受特别敏锐。我正如此想着,猛然注意
[02:35.55]注意老板娘原来是手撑拐杖、颤巍巍地勉强站立的,
[02:41.81]我遏制住自己抢步朝她跑过去的念头,只是和她对望着,此时我的泪水禁不住涌出眼眶,
[02:51.34]她那双睁得大大的眼睛里,也洒下了两行泪。
[02:59.02]随后,我一语不发走出药房,
[03:07.25]踉踉跄跄回到公寓,让由子冲了杯盐水给我喝下,然后默默地睡下。
[03:14.64]第二天我谎称有点感冒,在床上躺了一整天。
[03:20.52]到了晚上,我对自己咳血的事情实在感到不安,于是爬起来,又去了那家药房。
[03:39.80]“你必须戒酒。”
[03:42.71]我们就像是一家人似的坦率不客套。
[03:47.11]“我大概是得了酒精依存症了,就这会儿我还想喝酒哩。”
[03:52.89]“不可以!我丈夫就是,明明得了结核病,却偏说要用酒来杀菌,
[04:00.16]成天都泡在酒里,结果自己缩短了自己的寿命。”
[04:04.51]“我真的很担心,我已经害怕得不行了。”
[04:12.15]“我这就拿药给你。不过,唯独这酒,你必须得戒掉。”
[04:17.41]老板娘(她是个寡妇,膝下有一个男孩,考上了千叶还是什么地方的医科大学,
[04:26.52]但没过不久就患上和他父亲同样的病,现在休学待在医院,
[04:31.72]家里还躺着个中风的公公,而她自己五岁上下时
[04:37.65]因为患小儿麻痹症,有一条腿完全无法站立)撑着丁字拐,在地上发出咚咚的响声,。
[04:46.24]翻箱倒柜地为我找出各种药品来
[04:54.64]这是造血剂。
[04:58.73]这是维生素注射液,注射器在这里。
[05:05.16]这个是钙片。这是淀粉酶,可以帮助消化,改善肠胃不适。
[05:11.83]这是……这个是……她充满爱心地向我介绍了五六种药物的功效。
[05:20.46]然而这位不幸的夫人,她的爱心对我来说过于沉重了。
[05:27.97]最后她对我说:“要是你忍不住、实在想喝酒的时候,
[05:35.44]就用这个药。”说罢,迅速将一小盒药用纸包了起来。
[05:41.51]原来是吗啡注射液。
[05:44.91]老板娘告诉我说,这药的危害至少没有酒来得厉害。我对此深信不疑
[05:51.77]加之当时我自己对酗酒产生了一种肮脏感,
[05:58.43]倘若能够摆脱酒精这个恶魔的长期纠缠自然不亦乐乎,
[06:04.13]于是毫不踌躇便将吗啡注射进了自己的手臂。
[06:12.31]不安、焦躁、羞臊等等,全都一扫而空,
[06:18.63]我摇身一变成了性情开朗、喜欢高谈阔论的男人。要注射一针,
[06:28.36]顿时就会忘掉身体的衰弱,全身心地投入到工作中,一面作着漫画,
[06:32.60]一面思如泉涌,脑子里不断闪现出各种稀奇古怪的创意。
[06:39.69]先是一天注射一针,后来渐渐变为两针,最后增加到一天四针,
[06:47.95]而一旦缺少了它,我便无法工作了。
[06:52.81]“这样不行啊!要是上了瘾,那就不得了啦!”
[06:59.19]听药房老板娘这么说,
[07:01.89]我登时觉得自己已经变成了重度瘾君子
[07:07.12](我这个人生性脆弱,极易受到别人暗示。
[07:12.96]例如有人说,就算我告诉你这笔钱花不得,那也无济于事,因为这毕竟是你自己的事呀……
[07:19.48]听到这话,似乎不花掉这笔钱反倒有错,反倒会辜负对方的期待,
[07:26.10]我会产生一种错觉,于是必定要很快将它花掉)。基于对上瘾的害怕不安,
[07:36.66]我对药物的需渴变得越发厉害。
[07:41.35]“求求你,再给我一盒!月底我一定会付钱的。”
[07:47.78]“钱嘛,什么时候付倒都没关系,只是警察管得很紧呢。”
[07:55.72]哦,原来我四周始终围裹着某种浑浊而灰暗的、见不得人的可疑气氛。
[08:06.84]“那就请你无论如何帮我搪塞过去,求求你,夫人。让我吻你一下!”
[08:13.27]老板娘登时羞红了脸。
[08:16.81]我赶紧趁势央求:
[08:19.87]“假如没有这药的话,我就完全没法像模像样地工作了。
[08:24.35]对我来说,那就像是强精提欲的激素一样。”
[08:29.32]“那还不如直接注射荷尔蒙好了。”
[08:32.91]“你别拿我寻开心了。反正我要么借助酒,没酒的话
[08:36.54]就得靠那种药,否则我真的没法工作。”
[08:40.88]“酒可不行。”
[08:44.57]“所以说嘛!自打我用了那种药,
[08:49.21]就一直滴酒未沾啊。多亏了它,我现在身体状况好得不得了哩。
[08:55.71]我可不想自己永远只能画那些下三流的漫画,
[09:01.93]从今往后,我一定彻底把酒戒了,调养好身体,发奋钻研,一定要成为一个伟大的画家!
[09:08.98]眼下正是最关键的时刻,所以拜托你,当我求你啦。让我吻你一下吧!”
[09:17.31]老板娘扑哧笑了起来:
[09:20.21]“你真让我为难。要是真上了瘾,我可不管哦。”
[09:25.77]她咚咚咚地撑着拐杖,从药品架上取下那药,说道:
[09:31.56]“不能给你一整盒,你会马上用完的。给你一半吧。”
[09:40.51]“真小气。算了,就一半吧。”
[09:46.11]回到家里,我立即注射了一针。
[09:52.00]“不痛吗?”
[09:55.19]由子战战兢兢地问我。
[09:59.45]“当然痛喽。不过,为了提高工作效率,
[10:04.96]就算不情愿也得这样做啊。
[10:08.67]我这阵子精神不错吧?好了,开始工作了!工作、工作!”我兴奋地嚷着。
[10:18.38]有几次,我还深更半夜跑去药房叩门。
[10:23.75]老板娘身上裹着睡衣,咚咚咚地撑着拐杖出来开门。
[10:28.95]我猛地扑上去,抱住她,吻她,同时还装出一副痛苦欲绝的涕泣状。
[10:34.00]老板娘不发一语,默默地递给我一盒药。
[10:39.29]药品与烧酒一样,不,甚至是比烧酒更可恨更肮脏的东西
[10:48.44]当我深切体会到这一点的时候,已经变成一个彻头彻尾的瘾君子了。
[10:55.09]真是无耻之极。为了得到那药,
[11:04.29]我重又开始仿制春宫画,并且
[11:08.07]与那家药房的残疾老板娘建立了一种真正称得上丑恶的关系。
[11:15.00]我想死。比任何时候都更想去死。我已经回不了头了。无论我做什么,
[11:26.03]无论我怎样做,都是徒劳的,只会丑上加丑,避了坑反而落了井。
[11:31.40]我已不配奢望骑自行车去瀑布游玩之类的事情,唯有在污秽的罪恶上不断堆叠卑劣的罪恶,
[11:40.26]让苦恼越来越多,越来越强烈。我想死,我只有死路一条,
[11:48.10]苟活下去便是万恶之根源。——尽管我仿佛钻进了牛角尖,无论如何都摆脱不掉这种念头,
[11:56.08]却依旧身不由己地频频往返于公寓与药房之间,活脱脱一副半狂半疯的模样。
[12:02.81]无论我怎样拼命工作,由于药物用量也随之增大,
[12:08.92]积欠的药费已经高得吓人。老板娘每次看到我就会眼中泛泪,我自己也禁不住潸然泪下。
[12:21.69]地狱。我想到一个挣脱出地狱的最后手段。假使连这个方法也归于失败的话,
[12:31.29]我便只有勒颈上吊一条路了。我想赌一赌看这世上神明是否真的存在,于是抱定决心,
[12:38.52]写了封长信寄给老家的父亲,
[12:43.41]坦承自己的所有实情(有关女人的事,终究还是无法落笔)。
[12:53.44]不想结果更惨,我引颈期盼,左等右等却一直杳无音信。
[13:01.07]焦灼与不安反而更使我加大了用药剂量。
[13:08.27]今夜,索性一口气注射十针,然后跳进大河里,一了百了——就在我暗下决意的那天下午,
[13:19.00]“比目鱼”就像凭借恶魔的直觉嗅到了什么似的,带着堀木出现在我面前。
[13:26.92]“听说你咳血了?”
[13:32.80]堀木盘腿坐在我面前,问我。
[13:36.63]他脸上荡漾起一种我从未见过的充满柔情的微笑。
[13:41.29]那温煦柔善的微笑使我既感激又兴奋,我情不自禁地背过脸潸然泪下。
[13:52.35]仅仅因为他那温柔的微笑,我便被彻底击败,然后便被强行从这人世间沉埋。
[14:02.85]我被送上汽车。你必须先得住院治疗
[14:11.44],后续的事情交给我们来办就是了——“比目鱼”用平静的口吻规劝我
[14:17.02](那口吻平静得我甚至想用“慈悲满怀”来形容)。
[14:25.88]我俨然像一个毫无意志、毫无判断力的人,
[14:30.93]只知道嘤嘤啜泣,最终还是唯唯诺诺地听从他们两人的安排。
[14:37.54]连同由子在内,我们四人坐在汽车上颠簸了许久,
[14:45.25]直到四周天色有些昏暗的时候,才抵达一座位于森林中的大医院门口。
[14:53.20]我以为这是一所结核病疗养院。
[14:57.56]我接受了一名年轻医生极为温柔而周到的检查,
[15:06.54]“好了,你就在这里静养一阵子吧。”
[15:11.55]他略带腼腆地微笑着对我说,比目鱼”、堀木和由子
[15:18.10]撇下我一个人回去了。
[15:21.46]走之前由子递给我一个装有换洗衣服的包袱,
[15:27.19]又一声不响从腰带间取出注射器和没有用完的药塞给我。
[15:35.03]看来她还真的以为那是强精提欲的激素呢。
[15:41.36]“不,我已经不需要了。”
[15:45.25]这绝对是一件难得的事。拒绝别人的劝诱
[15:53.25]说是我生平以来唯一的一次,也一点不为过。
[16:01.19]我的不幸,是因为没有拒绝的能力,因此一旦别人劝诱,我便觉得假如拒绝的话,
[16:09.99]会在对方的心里和自己的心里都留下一道显而易见、永远也无法修补的裂痕。我已习惯畏服于这种恐惧。
[16:20.43]但当时,曾经令我疯狂渴求的吗啡,
[16:28.70]我却极其自然地拒绝了,或许是被由子那种“如神明般的无知”打动了吧。
[16:38.89]那一瞬间,我应该已经摆脱掉毒瘾的纠缠了吧?
[16:46.48]很快,我被那名挂着腼腆微笑的年轻医生领着,
[16:55.10]进入一栋病房,随即大门被哐啷一声上了锁。这里是疯人院。
[17:04.27]“到没有女人的地方去”,我在服用巴比妥后说出来的愚痴的呓语竟然奇妙地变成了现实
[17:13.22]这栋病房里全都是男性精神病患者,
[17:22.89]连看护也是男的,没有一个女人。
[17:28.51]如今我非但是一个罪人,还成了一个疯子。
[17:36.15]不,我绝对没有发疯!
[17:41.84]即使是瞬间片刻,我也不曾疯过。但是,听说所有疯子都会这样说自己的。
[17:57.13]换句话说,凡是被关进这所医院的人全是疯子,而没被关进来的则是正常人。
[18:06.35]我问神明:难道不抵抗也是罪过吗?
[18:13.84]面对堀木那不可思议的美丽微笑,我感激涕零,失去了判断,毫无反抗,坐上汽车
[18:25.28]被带进这里,从而变成了一个疯子。即使从这里出去,
[18:36.02]我还是会被人在额头烙上“疯子”的印记,不,是“废人”的印记。
[18:46.59]我已丧失做人的资格。
[18:51.65]我已经彻底变成一个非人了。
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人間失格
太宰治
朗読 小野大輔
こうこは、どうこの細道じゃ?
こうこは、どうこの細道じゃ?
哀れな童女の歌声が、幻聴のように、かすかに遠くから聞えます。
不幸。この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうが、
しかし、その人たちの不幸は、所謂(いわゆる)世間に対して堂々と抗議が出来、
また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。
しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、
また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、ヒラメならずとも世間の人たち全部、
よくもまあそんな口がきけたものだと呆(あき)れかえるに違いないし、
自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、
自分でもわけがわからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、
どこまでも自から(おのずから)どんどん不幸になるばかりで、
防ぎ止める具体策など無いのです。
自分は立って、取り敢えず何か適当な薬をと思い、
近くの薬屋にはいって、そこの奥さんと顔を見合せ、
瞬間、奥さんは、フラッシュを浴びたみたいに首をあげ眼を見はり、
棒立ちになりました。しかし、その見はった眼には、驚愕の色も嫌悪の色も無く、
ほとんど救いを求めるような、慕うような色があらわれているのでした。
ああ、このひとも、きっと不幸な人なのだ、不幸な人は、
ひとの不幸にも敏感なものなのだから、と思った時、ふと、
その奥さんが松葉杖(まつばづえ)をついて危かしく立っているのに気がつきました。
駈け寄りたい思いを抑えて、なおもその奥さんと顔を見合せているうちに涙が出て来ました。
すると、奥さんの大きい眼からも、涙がぽろぽろとあふれて出ました。
それっきり、一言も口をきかずに、自分はその薬屋から出て、
よろめいてアパートに帰り、ヨシ子に塩水を作らせて飲み、黙って寝て、
翌る日も、風邪気味だと嘘をついて一日一ぱい寝て、
夜、自分の秘密の喀血がどうにも不安でたまらず、起きて、あの薬屋に行き、
こんどは笑いながら、奥さんに、実に素直に今までのからだ具合いを告白し、相談しました。
「お酒をおよしにならなければ」
自分たちは、肉身のようでした。
「アル中になっているかも知れないんです。いまでも飲みたい」
「いけません。私の主人も、テーベのくせに、菌を酒で殺すんだなんて言って、
酒びたりになって、自分から寿命をちぢめました」
「不安でいけないんです。こわくて、とても、だめなんです」
「お薬を差し上げます。お酒だけは、およしなさい」
奥さん「未亡人で、男の子がひとり、それは千葉だかどこだかの医大にはいって、
間もなく父と同じ病いにかかり、休学入院中で、
家には中風の舅(しゅうと)が寝ていて、奥さん自身は五歳の折、
小児(しょうに)痲痺(まひ)で片方の脚が全然だめなのでした」は、松葉杖をコトコトと突きながら、
自分のためにあっちの棚、こっちの引出し、いろいろと薬品を取そろえてくれるのでした。
これは、造血剤。
これは、ヴィタミンの注射液。注射器は、これ。
これは、カルシウムの錠剤。胃腸をこわさないように、ジアスターゼ。
これは、何。これは、何、と五、六種の薬品の説明を愛情こめてしてくれたのですが、
しかし、この不幸な奥さんの愛情もまた、自分にとって深すぎました。
最後に奥さんが、これは、どうしても、なんとしてもお酒を飲みたくて、
たまらなくなった時のお薬、と言って素早く紙に包んだ小箱。
モルヒネの注射液でした。
酒よりは、害にならぬと奥さんも言い、自分もそれを信じて、
また一つには、酒の酔いもさすがに不潔に感ぜられて来た矢先でもあったし、
久し振りにアルコールというサタンからのがれる事の出来る喜びもあり、
何の躊躇(ちゅうちょ)も無く、自分は自分の腕に、そのモルヒネを注射しました。
不安も、焦燥(しょうそう)も、はにかみも、綺麗(きれい)に除去せられ、
自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして、その注射をすると自分は、
からだの衰弱も忘れて、漫画の仕事に精が出て、
自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。
一日一本のつもりが、二本になり、四本になった頃には、
自分はもうそれが無ければ、仕事が出来ないようになっていました。
「いけませんよ、中毒になったら、そりゃもう、たいへんです」
薬屋の奥さんにそう言われると、
自分はもうかなり{可成り}の中毒患者になってしまったような気がして来て、
(自分は、ひとの暗示に実にもろくひっかかるたちなのです。
このお金は使っちゃいけないよ、と言っても、お前の事だものなあ、
なんて言われると、何だか使わないと悪いような、期待にそむくような、
へんな錯覚が起って、必ずすぐにそのお金を使ってしまうのでした)その中毒の不安のため、
かえって薬品をたくさん求めるようになったのでした。
「たのむ! もう一箱。勘定は月末にきっと払いますから」
「勘定なんて、いつでもかまいませんけど、警察のほうが、うるさいのでねえ」
ああ、いつでも自分の周囲には、何やら、濁って暗く、うさん臭い日蔭者の気配がつきまとうのです。
「そこを何とか、ごまかして、たのむよ、奥さん。キスしてあげよう」
奥さんは、顔を赤らめます。
自分は、いよいよつけ込み、
「薬が無いと仕事がちっとも、はかどらないんだよ。
僕には、あれは強精剤みたいなものなんだ」
「それじゃ、いっそ、ホルモン注射がいいでしょう」
「ばかにしちゃいけません。お酒か、そうでなければ、
あの薬か、どっちかで無ければ仕事が出来ないんだ」
「お酒は、いけません」
「そうでしょう? 僕はね、あの薬を使うようになってから、
お酒は一滴も飲まなかった。おかげで、からだの調子が、とてもいいんだ。
僕だって、いつまでも、下手くそな漫画などをかいているつもりは無い、
これから、酒をやめて、からだを直して、勉強して、きっと偉い絵画きになって見せる。
いまが大事なところなんだ。だからさ、ね、おねがい。キスしてあげようか」
奥さんは笑い出し、
「困るわねえ。中毒になっても知りませんよ」
コトコトと松葉杖の音をさせて、その薬品を棚から取り出し、
「一箱は、あげられませんよ。すぐ使ってしまうのだもの。半分ね」
「ケチだなあ、まあ、仕方が無いや」
家へ帰って、すぐに一本、注射をします。
「痛くないんですか?」
ヨシ子は、おどおど自分にたずねます。
「それあ痛いさ。でも、仕事の能率をあげるためには、
いやでもこれをやらなければいけないんだ。
僕はこの頃、とても元気だろう? さあ、仕事だ。仕事、仕事」とはしゃぐのです。
深夜、薬屋の戸をたたいた事もありました。
寝巻姿で、コトコト松葉杖をついて出て来た奥さんに、
いきなり抱きついてキスして、泣く真似をしました。
奥さんは、黙って自分に一箱、手渡しました。
薬品もまた、焼酎同様、いや、それ以上に、いまわしく不潔なものだと、
つくづく思い知った時には、既に自分は完全な中毒患者になっていました。
真に、恥知らずの極(きわみ)でした。自分はその薬品を得たいばかりに、
またも春画のコピイをはじめ、そうして、
あの薬屋の不具の奥さんと文字どおりの醜関係をさえ結びました。
死にたい、いっそ、死にたい、もう取返しがつかないんだ、どんな事をしても、
何をしても、駄目になるだけなんだ、恥の上塗りをするだけなんだ、
自転車で青葉の滝など、自分には望むべくも無いんだ、ただけがらわしい罪にあさましい罪が重なり、
苦悩が増大し強烈になるだけなんだ、死にたい、死ななければならぬ、
生きているのが罪の種なのだ、などと思いつめても、やっぱり、
アパートと薬屋の間を半狂乱の姿で往復しているばかりなのでした。
いくら仕事をしても、薬の使用量もしたがってふえているので、
薬代の借りがおそろしいほどの額にのぼり、奥さんは、自分の顔を見ると涙を浮べ、自分も涙を流しました。
地獄。この地獄からのがれるための最後の手段、これが失敗したら、
あとはもう首をくくるばかりだ、という神の存在を賭ける(かける)ほどの決意を以って(もって)、
自分は、故郷の父あてに長い手紙を書いて、
自分の実情一さいを(女の事は、さすがに書けませんでしたが)告白する事にしました。
しかし、結果は一そう悪く、待てど暮せど何の返事も無く、
自分はその焦燥と不安のために、かえって薬の量をふやしてしまいました。
今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、
ヒラメが、悪魔の勘で(かぎつけた)嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。
「お前は、喀血したんだってな」
堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、
いままで見た事も無いくらいに優しく(ほほえみ)微笑みました。
その優しい微笑が、ありがたくて、うれしくて、自分はつい顔をそむけて涙を流しました。
そうして彼のその優しい微笑一つで、自分は完全に打ち破られ、葬り去られてしまったのです。
自分は自動車に乗せられました。とにかく入院しなければならぬ、
あとは自分たちにまかせなさい、とヒラメも、しんみりした口調で、
(それは慈悲深いとでも形容したいほど、もの静かな口調でした)自分にすすめ、
自分は意志も判断も何も無い者の如く、
ただメソメソ泣きながら唯々諾々と二人の言いつけに従うのでした。
ヨシ子もいれて四人、自分たちは、ずいぶん永いこと自動車にゆられ、
あたりが薄暗くなった頃、森の中の大きい病院の、玄関に到着しました。
サナトリアムとばかり思っていました。
自分は若い医師のいやに物やわらかな、鄭重(ていちょう)な診察を受け、それから医師は、
「まあ、しばらくここで静養するんですね」
と、まるで、はにかむように微笑して言い、ヒラメと堀木とヨシ子は、
自分ひとりを置いて帰ることになりましたが、
ヨシ子は着換の衣類をいれてある風呂敷包を自分に手渡し、
それから黙って帯の間から注射器と使い残りのあの薬品を差し出しました。
やはり、強精剤だとばかり思っていたのでしょうか。
「いや、もう要らない」
実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、
自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。
自分の不幸は、拒否の能力の無い者の不幸でした。すすめられて拒否すると、
相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。
けれども、自分はその時、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、
実に自然に拒否しました。ヨシ子の謂わば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。
自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。
けれども、自分はそれからすぐに、あのはにかむような微笑をする若い医師に案内せられ、
ある病棟にいれられて、ガチャンと鍵(かぎ)をおろされました。脳病院でした。
女のいないところへ行くという、あのジアールを飲んだ時の自分の愚かなうわごとが、
まことに奇妙に実現せられたわけでした。その病棟には、男の狂人ばかりで、
看護人も男でしたし、女はひとりもいませんでした。
いまはもう自分は、罪人どころではなく、狂人でした。
いいえ、断じて自分は狂ってなどいなかったのです。
一瞬間といえども、狂った事は無いんです。けれども、ああ、狂人は、たいてい自分の事をそう言うものだそうです。
つまり、この病院にいれられた者は気違い、いれられなかった者は、ノーマルという事になるようです。
神に問う。無抵抗は罪なりや?
堀木のあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて自動車に乗り、
そうしてここに連れて来られて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、
自分はやっぱり狂人、いや、癈人(はいじん)という刻印を額に打たれる事でしょう。
人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
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[00:01.18]海王社文庫
[00:04.33]人間失格
[00:07.18]太宰治
[00:09.24]朗読 小野大輔
[00:13.33]
[00:14.77]こうこは、どうこの細道じゃ?
[00:19.60]こうこは、どうこの細道じゃ?
[00:24.14]哀れな童女の歌声が、幻聴のように、かすかに遠くから聞えます。
[00:33.03]不幸。この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうが、
[00:45.29]しかし、その人たちの不幸は、所謂(いわゆる)世間に対して堂々と抗議が出来、
[00:53.37]また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。
[00:59.95]しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、
[01:09.64]また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、ヒラメならずとも世間の人たち全部、
[01:18.65]よくもまあそんな口がきけたものだと呆(あき)れかえるに違いないし、
[01:23.59]自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、
[01:31.91]自分でもわけがわからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、
[01:39.17]どこまでも自から(おのずから)どんどん不幸になるばかりで、
[01:44.21]防ぎ止める具体策など無いのです。
[01:47.81]自分は立って、取り敢えず何か適当な薬をと思い、
[01:54.55]近くの薬屋にはいって、そこの奥さんと顔を見合せ、
[01:59.87]瞬間、奥さんは、フラッシュを浴びたみたいに首をあげ眼を見はり、
[02:05.91]棒立ちになりました。しかし、その見はった眼には、驚愕の色も嫌悪の色も無く、
[02:15.13]ほとんど救いを求めるような、慕うような色があらわれているのでした。
[02:21.75]ああ、このひとも、きっと不幸な人なのだ、不幸な人は、
[02:29.85]ひとの不幸にも敏感なものなのだから、と思った時、ふと、
[02:35.55]その奥さんが松葉杖(まつばづえ)をついて危かしく立っているのに気がつきました。
[02:41.81]駈け寄りたい思いを抑えて、なおもその奥さんと顔を見合せているうちに涙が出て来ました。
[02:51.34]すると、奥さんの大きい眼からも、涙がぽろぽろとあふれて出ました。
[02:59.02]それっきり、一言も口をきかずに、自分はその薬屋から出て、
[03:07.25]よろめいてアパートに帰り、ヨシ子に塩水を作らせて飲み、黙って寝て、
[03:14.64]翌る日も、風邪気味だと嘘をついて一日一ぱい寝て、
[03:20.52]夜、自分の秘密の喀血がどうにも不安でたまらず、起きて、あの薬屋に行き、
[03:29.67]こんどは笑いながら、奥さんに、実に素直に今までのからだ具合いを告白し、相談しました。
[03:39.80]「お酒をおよしにならなければ」
[03:42.71]自分たちは、肉身のようでした。
[03:47.11]「アル中になっているかも知れないんです。いまでも飲みたい」
[03:52.89]「いけません。私の主人も、テーベのくせに、菌を酒で殺すんだなんて言って、
[04:00.16]酒びたりになって、自分から寿命をちぢめました」
[04:04.51]「不安でいけないんです。こわくて、とても、だめなんです」
[04:12.15]「お薬を差し上げます。お酒だけは、およしなさい」
[04:17.41]奥さん「未亡人で、男の子がひとり、それは千葉だかどこだかの医大にはいって、
[04:26.52]間もなく父と同じ病いにかかり、休学入院中で、
[04:31.72]家には中風の舅(しゅうと)が寝ていて、奥さん自身は五歳の折、
[04:37.65]小児(しょうに)痲痺(まひ)で片方の脚が全然だめなのでした」は、松葉杖をコトコトと突きながら、
[04:46.24]自分のためにあっちの棚、こっちの引出し、いろいろと薬品を取そろえてくれるのでした。
[04:54.64] これは、造血剤。
[04:58.73] これは、ヴィタミンの注射液。注射器は、これ。
[05:05.16] これは、カルシウムの錠剤。胃腸をこわさないように、ジアスターゼ。
[05:11.83] これは、何。これは、何、と五、六種の薬品の説明を愛情こめてしてくれたのですが、
[05:20.46] しかし、この不幸な奥さんの愛情もまた、自分にとって深すぎました。
[05:27.97] 最後に奥さんが、これは、どうしても、なんとしてもお酒を飲みたくて、
[05:35.44] たまらなくなった時のお薬、と言って素早く紙に包んだ小箱。
[05:41.51] モルヒネの注射液でした。
[05:44.91] 酒よりは、害にならぬと奥さんも言い、自分もそれを信じて、
[05:51.77] また一つには、酒の酔いもさすがに不潔に感ぜられて来た矢先でもあったし、
[05:58.43] 久し振りにアルコールというサタンからのがれる事の出来る喜びもあり、
[06:04.13] 何の躊躇(ちゅうちょ)も無く、自分は自分の腕に、そのモルヒネを注射しました。
[06:12.31] 不安も、焦燥(しょうそう)も、はにかみも、綺麗(きれい)に除去せられ、
[06:18.63] 自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして、その注射をすると自分は、
[06:28.36] からだの衰弱も忘れて、漫画の仕事に精が出て、
[06:32.60] 自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。
[06:39.69] 一日一本のつもりが、二本になり、四本になった頃には、
[06:47.95] 自分はもうそれが無ければ、仕事が出来ないようになっていました。
[06:52.81] 「いけませんよ、中毒になったら、そりゃもう、たいへんです」
[06:59.19] 薬屋の奥さんにそう言われると、
[07:01.89] 自分はもうかなり{可成り}の中毒患者になってしまったような気がして来て、
[07:07.12] (自分は、ひとの暗示に実にもろくひっかかるたちなのです。
[07:12.96] このお金は使っちゃいけないよ、と言っても、お前の事だものなあ、
[07:19.48] なんて言われると、何だか使わないと悪いような、期待にそむくような、
[07:26.10] へんな錯覚が起って、必ずすぐにそのお金を使ってしまうのでした)その中毒の不安のため、
[07:36.66] かえって薬品をたくさん求めるようになったのでした。
[07:41.35] 「たのむ! もう一箱。勘定は月末にきっと払いますから」
[07:47.78] 「勘定なんて、いつでもかまいませんけど、警察のほうが、うるさいのでねえ」
[07:55.72] ああ、いつでも自分の周囲には、何やら、濁って暗く、うさん臭い日蔭者の気配がつきまとうのです。
[08:06.84] 「そこを何とか、ごまかして、たのむよ、奥さん。キスしてあげよう」
[08:13.27] 奥さんは、顔を赤らめます。
[08:16.81] 自分は、いよいよつけ込み、
[08:19.87] 「薬が無いと仕事がちっとも、はかどらないんだよ。
[08:24.35] 僕には、あれは強精剤みたいなものなんだ」
[08:29.32] 「それじゃ、いっそ、ホルモン注射がいいでしょう」
[08:32.91] 「ばかにしちゃいけません。お酒か、そうでなければ、
[08:36.54] あの薬か、どっちかで無ければ仕事が出来ないんだ」
[08:40.88] 「お酒は、いけません」
[08:44.57] 「そうでしょう? 僕はね、あの薬を使うようになってから、
[08:49.21] お酒は一滴も飲まなかった。おかげで、からだの調子が、とてもいいんだ。
[08:55.71] 僕だって、いつまでも、下手くそな漫画などをかいているつもりは無い、
[09:01.93] これから、酒をやめて、からだを直して、勉強して、きっと偉い絵画きになって見せる。
[09:08.98] いまが大事なところなんだ。だからさ、ね、おねがい。キスしてあげようか」
[09:17.31] 奥さんは笑い出し、
[09:20.21] 「困るわねえ。中毒になっても知りませんよ」
[09:25.77] コトコトと松葉杖の音をさせて、その薬品を棚から取り出し、
[09:31.56] 「一箱は、あげられませんよ。すぐ使ってしまうのだもの。半分ね」
[09:40.51] 「ケチだなあ、まあ、仕方が無いや」
[09:46.11] 家へ帰って、すぐに一本、注射をします。
[09:52.00] 「痛くないんですか?」
[09:55.19] ヨシ子は、おどおど自分にたずねます。
[09:59.45] 「それあ痛いさ。でも、仕事の能率をあげるためには、
[10:04.96] いやでもこれをやらなければいけないんだ。
[10:08.67] 僕はこの頃、とても元気だろう? さあ、仕事だ。仕事、仕事」とはしゃぐのです。
[10:18.38] 深夜、薬屋の戸をたたいた事もありました。
[10:23.75] 寝巻姿で、コトコト松葉杖をついて出て来た奥さんに、
[10:28.95] いきなり抱きついてキスして、泣く真似をしました。
[10:34.00] 奥さんは、黙って自分に一箱、手渡しました。
[10:39.29] 薬品もまた、焼酎同様、いや、それ以上に、いまわしく不潔なものだと、
[10:48.44] つくづく思い知った時には、既に自分は完全な中毒患者になっていました。
[10:55.09] 真に、恥知らずの極(きわみ)でした。自分はその薬品を得たいばかりに、
[11:04.29] またも春画のコピイをはじめ、そうして、
[11:08.07] あの薬屋の不具の奥さんと文字どおりの醜関係をさえ結びました。
[11:15.00] 死にたい、いっそ、死にたい、もう取返しがつかないんだ、どんな事をしても、
[11:26.03] 何をしても、駄目になるだけなんだ、恥の上塗りをするだけなんだ、
[11:31.40] 自転車で青葉の滝など、自分には望むべくも無いんだ、ただけがらわしい罪にあさましい罪が重なり、
[11:40.26] 苦悩が増大し強烈になるだけなんだ、死にたい、死ななければならぬ、
[11:48.10] 生きているのが罪の種なのだ、などと思いつめても、やっぱり、
[11:56.08] アパートと薬屋の間を半狂乱の姿で往復しているばかりなのでした。
[12:02.81] いくら仕事をしても、薬の使用量もしたがってふえているので、
[12:08.92] 薬代の借りがおそろしいほどの額にのぼり、奥さんは、自分の顔を見ると涙を浮べ、自分も涙を流しました。
[12:21.69] 地獄。この地獄からのがれるための最後の手段、これが失敗したら、
[12:31.29] あとはもう首をくくるばかりだ、という神の存在を賭ける(かける)ほどの決意を以って(もって)、
[12:38.52] 自分は、故郷の父あてに長い手紙を書いて、
[12:43.41] 自分の実情一さいを(女の事は、さすがに書けませんでしたが)告白する事にしました。
[12:53.44] しかし、結果は一そう悪く、待てど暮せど何の返事も無く、
[13:01.07] 自分はその焦燥と不安のために、かえって薬の量をふやしてしまいました。
[13:08.27] 今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、
[13:19.00] ヒラメが、悪魔の勘で(かぎつけた)嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。
[13:26.92] 「お前は、喀血したんだってな」
[13:32.80] 堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、
[13:36.63] いままで見た事も無いくらいに優しく(ほほえみ)微笑みました。
[13:41.29] その優しい微笑が、ありがたくて、うれしくて、自分はつい顔をそむけて涙を流しました。
[13:52.35] そうして彼のその優しい微笑一つで、自分は完全に打ち破られ、葬り去られてしまったのです。
[14:02.85] 自分は自動車に乗せられました。とにかく入院しなければならぬ、
[14:11.44] あとは自分たちにまかせなさい、とヒラメも、しんみりした口調で、
[14:17.02] (それは慈悲深いとでも形容したいほど、もの静かな口調でした)自分にすすめ、
[14:25.88] 自分は意志も判断も何も無い者の如く、
[14:30.93] ただメソメソ泣きながら唯々諾々と二人の言いつけに従うのでした。
[14:37.54] ヨシ子もいれて四人、自分たちは、ずいぶん永いこと自動車にゆられ、
[14:45.25] あたりが薄暗くなった頃、森の中の大きい病院の、玄関に到着しました。
[14:53.20] サナトリアムとばかり思っていました。
[14:57.56] 自分は若い医師のいやに物やわらかな、鄭重(ていちょう)な診察を受け、それから医師は、
[15:06.54] 「まあ、しばらくここで静養するんですね」
[15:11.55] と、まるで、はにかむように微笑して言い、ヒラメと堀木とヨシ子は、
[15:18.10] 自分ひとりを置いて帰ることになりましたが、
[15:21.46] ヨシ子は着換の衣類をいれてある風呂敷包を自分に手渡し、
[15:27.19] それから黙って帯の間から注射器と使い残りのあの薬品を差し出しました。
[15:35.03] やはり、強精剤だとばかり思っていたのでしょうか。
[15:41.36] 「いや、もう要らない」
[15:45.25] 実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、
[15:53.25] 自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。
[16:01.19] 自分の不幸は、拒否の能力の無い者の不幸でした。すすめられて拒否すると、
[16:09.99] 相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。
[16:20.43] けれども、自分はその時、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、
[16:28.70] 実に自然に拒否しました。ヨシ子の謂わば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。
[16:38.89] 自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。
[16:46.48] けれども、自分はそれからすぐに、あのはにかむような微笑をする若い医師に案内せられ、
[16:55.10] ある病棟にいれられて、ガチャンと鍵(かぎ)をおろされました。脳病院でした。
[17:04.27] 女のいないところへ行くという、あのジアールを飲んだ時の自分の愚かなうわごとが、
[17:13.22] まことに奇妙に実現せられたわけでした。その病棟には、男の狂人ばかりで、
[17:22.89] 看護人も男でしたし、女はひとりもいませんでした。
[17:28.51] いまはもう自分は、罪人どころではなく、狂人でした。
[17:36.15] いいえ、断じて自分は狂ってなどいなかったのです。
[17:41.84] 一瞬間といえども、狂った事は無いんです。けれども、ああ、狂人は、たいてい自分の事をそう言うものだそうです。
[17:57.13] つまり、この病院にいれられた者は気違い、いれられなかった者は、ノーマルという事になるようです。
[18:06.35] 神に問う。無抵抗は罪なりや?
[18:13.84] 堀木のあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて自動車に乗り、
[18:25.28] そうしてここに連れて来られて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、
[18:36.02] 自分はやっぱり狂人、いや、癈人(はいじん)という刻印を額に打たれる事でしょう。
[18:46.59] 人間、失格。
[18:51.65] もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
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失去做人的资格
太宰治
朗读 小野大辅
这儿是何方的小道?
这儿是何方的小道?
一个女孩哀婉的歌声恍若幻听一般隐隐约约地从远处传了过来。
不幸。在这个世上不乏不幸之人,不,尽是些不幸之人。即使这么说也绝非过激之辞。
但是,他们的不幸却可以堂而皇之地向世间发出抗议,
并且,“世间”也很容易理解和同情他们的抗议。
可是,我的不幸却全部缘于自己的罪恶,所以不可能向任何人进行抗议。
假如我斗胆结巴着说出某一句近于抗议的话,不仅是“比目鱼”,甚至世间的所有人
都无疑会因我口出狂言而惊讶无比的。
到底我是像俗话所说的那样“刚愎自用”呢?还是与此相反,显得过去怯懦萎缩呢?
这一点连我自己都弄不明白。 总之,我是罪孽的凝固体,
所以,我只能变得越来越不幸,
而这是无法阻止和防范的。
我站起来,琢磨着应该去弄点什么药调养一下,
于是走进附近的一家药房。就在我与药房老板娘照面
一瞬间,她好像被镁光灯的闪光照得发了怔,抬起头圆睁着双眼,
呆呆地伫立在那里。那双睁圆的眼睛里既没有惊愕也没有厌恶
而是流露出像是求救又像是充满了渴慕般的目光
唉,她一定也是个不幸的人,因为不幸的人
总是对别人的不幸感受特别敏锐。我正如此想着,猛然注意
注意老板娘原来是手撑拐杖、颤巍巍地勉强站立的,
我遏制住自己抢步朝她跑过去的念头,只是和她对望着,此时我的泪水禁不住涌出眼眶,
她那双睁得大大的眼睛里,也洒下了两行泪。
随后,我一语不发走出药房,
踉踉跄跄回到公寓,让由子冲了杯盐水给我喝下,然后默默地睡下。
第二天我谎称有点感冒,在床上躺了一整天。
到了晚上,我对自己咳血的事情实在感到不安,于是爬起来,又去了那家药房。
“你必须戒酒。”
我们就像是一家人似的坦率不客套。
“我大概是得了酒精依存症了,就这会儿我还想喝酒哩。”
“不可以!我丈夫就是,明明得了结核病,却偏说要用酒来杀菌,
成天都泡在酒里,结果自己缩短了自己的寿命。”
“我真的很担心,我已经害怕得不行了。”
“我这就拿药给你。不过,唯独这酒,你必须得戒掉。”
老板娘(她是个寡妇,膝下有一个男孩,考上了千叶还是什么地方的医科大学,
但没过不久就患上和他父亲同样的病,现在休学待在医院,
家里还躺着个中风的公公,而她自己五岁上下时
因为患小儿麻痹症,有一条腿完全无法站立)撑着丁字拐,在地上发出咚咚的响声,。
翻箱倒柜地为我找出各种药品来
这是造血剂。
这是维生素注射液,注射器在这里。
这个是钙片。这是淀粉酶,可以帮助消化,改善肠胃不适。
这是……这个是……她充满爱心地向我介绍了五六种药物的功效。
然而这位不幸的夫人,她的爱心对我来说过于沉重了。
最后她对我说:“要是你忍不住、实在想喝酒的时候,
就用这个药。”说罢,迅速将一小盒药用纸包了起来。
原来是吗啡注射液。
老板娘告诉我说,这药的危害至少没有酒来得厉害。我对此深信不疑
加之当时我自己对酗酒产生了一种肮脏感,
倘若能够摆脱酒精这个恶魔的长期纠缠自然不亦乐乎,
于是毫不踌躇便将吗啡注射进了自己的手臂。
不安、焦躁、羞臊等等,全都一扫而空,
我摇身一变成了性情开朗、喜欢高谈阔论的男人。要注射一针,
顿时就会忘掉身体的衰弱,全身心地投入到工作中,一面作着漫画,
一面思如泉涌,脑子里不断闪现出各种稀奇古怪的创意。
先是一天注射一针,后来渐渐变为两针,最后增加到一天四针,
而一旦缺少了它,我便无法工作了。
“这样不行啊!要是上了瘾,那就不得了啦!”
听药房老板娘这么说,
我登时觉得自己已经变成了重度瘾君子
(我这个人生性脆弱,极易受到别人暗示。
例如有人说,就算我告诉你这笔钱花不得,那也无济于事,因为这毕竟是你自己的事呀……
听到这话,似乎不花掉这笔钱反倒有错,反倒会辜负对方的期待,
我会产生一种错觉,于是必定要很快将它花掉)。基于对上瘾的害怕不安,
我对药物的需渴变得越发厉害。
“求求你,再给我一盒!月底我一定会付钱的。”
“钱嘛,什么时候付倒都没关系,只是警察管得很紧呢。”
哦,原来我四周始终围裹着某种浑浊而灰暗的、见不得人的可疑气氛。
“那就请你无论如何帮我搪塞过去,求求你,夫人。让我吻你一下!”
老板娘登时羞红了脸。
我赶紧趁势央求:
“假如没有这药的话,我就完全没法像模像样地工作了。
对我来说,那就像是强精提欲的激素一样。”
“那还不如直接注射荷尔蒙好了。”
“你别拿我寻开心了。反正我要么借助酒,没酒的话
就得靠那种药,否则我真的没法工作。”
“酒可不行。”
“所以说嘛!自打我用了那种药,
就一直滴酒未沾啊。多亏了它,我现在身体状况好得不得了哩。
我可不想自己永远只能画那些下三流的漫画,
从今往后,我一定彻底把酒戒了,调养好身体,发奋钻研,一定要成为一个伟大的画家!
眼下正是最关键的时刻,所以拜托你,当我求你啦。让我吻你一下吧!”
老板娘扑哧笑了起来:
“你真让我为难。要是真上了瘾,我可不管哦。”
她咚咚咚地撑着拐杖,从药品架上取下那药,说道:
“不能给你一整盒,你会马上用完的。给你一半吧。”
“真小气。算了,就一半吧。”
回到家里,我立即注射了一针。
“不痛吗?”
由子战战兢兢地问我。
“当然痛喽。不过,为了提高工作效率,
就算不情愿也得这样做啊。
我这阵子精神不错吧?好了,开始工作了!工作、工作!”我兴奋地嚷着。
有几次,我还深更半夜跑去药房叩门。
老板娘身上裹着睡衣,咚咚咚地撑着拐杖出来开门。
我猛地扑上去,抱住她,吻她,同时还装出一副痛苦欲绝的涕泣状。
老板娘不发一语,默默地递给我一盒药。
药品与烧酒一样,不,甚至是比烧酒更可恨更肮脏的东西
当我深切体会到这一点的时候,已经变成一个彻头彻尾的瘾君子了。
真是无耻之极。为了得到那药,
我重又开始仿制春宫画,并且
与那家药房的残疾老板娘建立了一种真正称得上丑恶的关系。
我想死。比任何时候都更想去死。我已经回不了头了。无论我做什么,
无论我怎样做,都是徒劳的,只会丑上加丑,避了坑反而落了井。
我已不配奢望骑自行车去瀑布游玩之类的事情,唯有在污秽的罪恶上不断堆叠卑劣的罪恶,
让苦恼越来越多,越来越强烈。我想死,我只有死路一条,
苟活下去便是万恶之根源。——尽管我仿佛钻进了牛角尖,无论如何都摆脱不掉这种念头,
却依旧身不由己地频频往返于公寓与药房之间,活脱脱一副半狂半疯的模样。
无论我怎样拼命工作,由于药物用量也随之增大,
积欠的药费已经高得吓人。老板娘每次看到我就会眼中泛泪,我自己也禁不住潸然泪下。
地狱。我想到一个挣脱出地狱的最后手段。假使连这个方法也归于失败的话,
我便只有勒颈上吊一条路了。我想赌一赌看这世上神明是否真的存在,于是抱定决心,
写了封长信寄给老家的父亲,
坦承自己的所有实情(有关女人的事,终究还是无法落笔)。
不想结果更惨,我引颈期盼,左等右等却一直杳无音信。
焦灼与不安反而更使我加大了用药剂量。
今夜,索性一口气注射十针,然后跳进大河里,一了百了——就在我暗下决意的那天下午,
“比目鱼”就像凭借恶魔的直觉嗅到了什么似的,带着堀木出现在我面前。
“听说你咳血了?”
堀木盘腿坐在我面前,问我。
他脸上荡漾起一种我从未见过的充满柔情的微笑。
那温煦柔善的微笑使我既感激又兴奋,我情不自禁地背过脸潸然泪下。
仅仅因为他那温柔的微笑,我便被彻底击败,然后便被强行从这人世间沉埋。
我被送上汽车。你必须先得住院治疗
,后续的事情交给我们来办就是了——“比目鱼”用平静的口吻规劝我
(那口吻平静得我甚至想用“慈悲满怀”来形容)。
我俨然像一个毫无意志、毫无判断力的人,
只知道嘤嘤啜泣,最终还是唯唯诺诺地听从他们两人的安排。
连同由子在内,我们四人坐在汽车上颠簸了许久,
直到四周天色有些昏暗的时候,才抵达一座位于森林中的大医院门口。
我以为这是一所结核病疗养院。
我接受了一名年轻医生极为温柔而周到的检查,
“好了,你就在这里静养一阵子吧。”
他略带腼腆地微笑着对我说,比目鱼”、堀木和由子
撇下我一个人回去了。
走之前由子递给我一个装有换洗衣服的包袱,
又一声不响从腰带间取出注射器和没有用完的药塞给我。
看来她还真的以为那是强精提欲的激素呢。
“不,我已经不需要了。”
这绝对是一件难得的事。拒绝别人的劝诱
说是我生平以来唯一的一次,也一点不为过。
我的不幸,是因为没有拒绝的能力,因此一旦别人劝诱,我便觉得假如拒绝的话,
会在对方的心里和自己的心里都留下一道显而易见、永远也无法修补的裂痕。我已习惯畏服于这种恐惧。
但当时,曾经令我疯狂渴求的吗啡,
我却极其自然地拒绝了,或许是被由子那种“如神明般的无知”打动了吧。
那一瞬间,我应该已经摆脱掉毒瘾的纠缠了吧?
很快,我被那名挂着腼腆微笑的年轻医生领着,
进入一栋病房,随即大门被哐啷一声上了锁。这里是疯人院。
“到没有女人的地方去”,我在服用巴比妥后说出来的愚痴的呓语竟然奇妙地变成了现实
这栋病房里全都是男性精神病患者,
连看护也是男的,没有一个女人。
如今我非但是一个罪人,还成了一个疯子。
不,我绝对没有发疯!
即使是瞬间片刻,我也不曾疯过。但是,听说所有疯子都会这样说自己的。
换句话说,凡是被关进这所医院的人全是疯子,而没被关进来的则是正常人。
我问神明:难道不抵抗也是罪过吗?
面对堀木那不可思议的美丽微笑,我感激涕零,失去了判断,毫无反抗,坐上汽车
被带进这里,从而变成了一个疯子。即使从这里出去,
我还是会被人在额头烙上“疯子”的印记,不,是“废人”的印记。
我已丧失做人的资格。
我已经彻底变成一个非人了。
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[by:厚生劳动省大臣加藤胜信]
[00:01.18]海王社文库
[00:04.33]失去做人的资格
[00:07.18]太宰治
[00:09.24]朗读 小野大辅
[00:14.77]这儿是何方的小道?
[00:19.60]这儿是何方的小道?
[00:24.14]一个女孩哀婉的歌声恍若幻听一般隐隐约约地从远处传了过来。
[00:33.03]不幸。在这个世上不乏不幸之人,不,尽是些不幸之人。即使这么说也绝非过激之辞。
[00:45.29]但是,他们的不幸却可以堂而皇之地向世间发出抗议,
[00:53.37]并且,“世间”也很容易理解和同情他们的抗议。
[00:59.95]可是,我的不幸却全部缘于自己的罪恶,所以不可能向任何人进行抗议。
[01:09.64]假如我斗胆结巴着说出某一句近于抗议的话,不仅是“比目鱼”,甚至世间的所有人
[01:18.65]都无疑会因我口出狂言而惊讶无比的。
[01:23.59]到底我是像俗话所说的那样“刚愎自用”呢?还是与此相反,显得过去怯懦萎缩呢?
[01:31.91]这一点连我自己都弄不明白。 总之,我是罪孽的凝固体,
[01:39.17]所以,我只能变得越来越不幸,
[01:44.21]而这是无法阻止和防范的。
[01:47.81]我站起来,琢磨着应该去弄点什么药调养一下,
[01:54.55]于是走进附近的一家药房。就在我与药房老板娘照面
[01:59.87]一瞬间,她好像被镁光灯的闪光照得发了怔,抬起头圆睁着双眼,
[02:05.91]呆呆地伫立在那里。那双睁圆的眼睛里既没有惊愕也没有厌恶
[02:15.13]而是流露出像是求救又像是充满了渴慕般的目光
[02:21.75]唉,她一定也是个不幸的人,因为不幸的人
[02:29.85]总是对别人的不幸感受特别敏锐。我正如此想着,猛然注意
[02:35.55]注意老板娘原来是手撑拐杖、颤巍巍地勉强站立的,
[02:41.81]我遏制住自己抢步朝她跑过去的念头,只是和她对望着,此时我的泪水禁不住涌出眼眶,
[02:51.34]她那双睁得大大的眼睛里,也洒下了两行泪。
[02:59.02]随后,我一语不发走出药房,
[03:07.25]踉踉跄跄回到公寓,让由子冲了杯盐水给我喝下,然后默默地睡下。
[03:14.64]第二天我谎称有点感冒,在床上躺了一整天。
[03:20.52]到了晚上,我对自己咳血的事情实在感到不安,于是爬起来,又去了那家药房。
[03:39.80]“你必须戒酒。”
[03:42.71]我们就像是一家人似的坦率不客套。
[03:47.11]“我大概是得了酒精依存症了,就这会儿我还想喝酒哩。”
[03:52.89]“不可以!我丈夫就是,明明得了结核病,却偏说要用酒来杀菌,
[04:00.16]成天都泡在酒里,结果自己缩短了自己的寿命。”
[04:04.51]“我真的很担心,我已经害怕得不行了。”
[04:12.15]“我这就拿药给你。不过,唯独这酒,你必须得戒掉。”
[04:17.41]老板娘(她是个寡妇,膝下有一个男孩,考上了千叶还是什么地方的医科大学,
[04:26.52]但没过不久就患上和他父亲同样的病,现在休学待在医院,
[04:31.72]家里还躺着个中风的公公,而她自己五岁上下时
[04:37.65]因为患小儿麻痹症,有一条腿完全无法站立)撑着丁字拐,在地上发出咚咚的响声,。
[04:46.24]翻箱倒柜地为我找出各种药品来
[04:54.64]这是造血剂。
[04:58.73]这是维生素注射液,注射器在这里。
[05:05.16]这个是钙片。这是淀粉酶,可以帮助消化,改善肠胃不适。
[05:11.83]这是……这个是……她充满爱心地向我介绍了五六种药物的功效。
[05:20.46]然而这位不幸的夫人,她的爱心对我来说过于沉重了。
[05:27.97]最后她对我说:“要是你忍不住、实在想喝酒的时候,
[05:35.44]就用这个药。”说罢,迅速将一小盒药用纸包了起来。
[05:41.51]原来是吗啡注射液。
[05:44.91]老板娘告诉我说,这药的危害至少没有酒来得厉害。我对此深信不疑
[05:51.77]加之当时我自己对酗酒产生了一种肮脏感,
[05:58.43]倘若能够摆脱酒精这个恶魔的长期纠缠自然不亦乐乎,
[06:04.13]于是毫不踌躇便将吗啡注射进了自己的手臂。
[06:12.31]不安、焦躁、羞臊等等,全都一扫而空,
[06:18.63]我摇身一变成了性情开朗、喜欢高谈阔论的男人。要注射一针,
[06:28.36]顿时就会忘掉身体的衰弱,全身心地投入到工作中,一面作着漫画,
[06:32.60]一面思如泉涌,脑子里不断闪现出各种稀奇古怪的创意。
[06:39.69]先是一天注射一针,后来渐渐变为两针,最后增加到一天四针,
[06:47.95]而一旦缺少了它,我便无法工作了。
[06:52.81]“这样不行啊!要是上了瘾,那就不得了啦!”
[06:59.19]听药房老板娘这么说,
[07:01.89]我登时觉得自己已经变成了重度瘾君子
[07:07.12](我这个人生性脆弱,极易受到别人暗示。
[07:12.96]例如有人说,就算我告诉你这笔钱花不得,那也无济于事,因为这毕竟是你自己的事呀……
[07:19.48]听到这话,似乎不花掉这笔钱反倒有错,反倒会辜负对方的期待,
[07:26.10]我会产生一种错觉,于是必定要很快将它花掉)。基于对上瘾的害怕不安,
[07:36.66]我对药物的需渴变得越发厉害。
[07:41.35]“求求你,再给我一盒!月底我一定会付钱的。”
[07:47.78]“钱嘛,什么时候付倒都没关系,只是警察管得很紧呢。”
[07:55.72]哦,原来我四周始终围裹着某种浑浊而灰暗的、见不得人的可疑气氛。
[08:06.84]“那就请你无论如何帮我搪塞过去,求求你,夫人。让我吻你一下!”
[08:13.27]老板娘登时羞红了脸。
[08:16.81]我赶紧趁势央求:
[08:19.87]“假如没有这药的话,我就完全没法像模像样地工作了。
[08:24.35]对我来说,那就像是强精提欲的激素一样。”
[08:29.32]“那还不如直接注射荷尔蒙好了。”
[08:32.91]“你别拿我寻开心了。反正我要么借助酒,没酒的话
[08:36.54]就得靠那种药,否则我真的没法工作。”
[08:40.88]“酒可不行。”
[08:44.57]“所以说嘛!自打我用了那种药,
[08:49.21]就一直滴酒未沾啊。多亏了它,我现在身体状况好得不得了哩。
[08:55.71]我可不想自己永远只能画那些下三流的漫画,
[09:01.93]从今往后,我一定彻底把酒戒了,调养好身体,发奋钻研,一定要成为一个伟大的画家!
[09:08.98]眼下正是最关键的时刻,所以拜托你,当我求你啦。让我吻你一下吧!”
[09:17.31]老板娘扑哧笑了起来:
[09:20.21]“你真让我为难。要是真上了瘾,我可不管哦。”
[09:25.77]她咚咚咚地撑着拐杖,从药品架上取下那药,说道:
[09:31.56]“不能给你一整盒,你会马上用完的。给你一半吧。”
[09:40.51]“真小气。算了,就一半吧。”
[09:46.11]回到家里,我立即注射了一针。
[09:52.00]“不痛吗?”
[09:55.19]由子战战兢兢地问我。
[09:59.45]“当然痛喽。不过,为了提高工作效率,
[10:04.96]就算不情愿也得这样做啊。
[10:08.67]我这阵子精神不错吧?好了,开始工作了!工作、工作!”我兴奋地嚷着。
[10:18.38]有几次,我还深更半夜跑去药房叩门。
[10:23.75]老板娘身上裹着睡衣,咚咚咚地撑着拐杖出来开门。
[10:28.95]我猛地扑上去,抱住她,吻她,同时还装出一副痛苦欲绝的涕泣状。
[10:34.00]老板娘不发一语,默默地递给我一盒药。
[10:39.29]药品与烧酒一样,不,甚至是比烧酒更可恨更肮脏的东西
[10:48.44]当我深切体会到这一点的时候,已经变成一个彻头彻尾的瘾君子了。
[10:55.09]真是无耻之极。为了得到那药,
[11:04.29]我重又开始仿制春宫画,并且
[11:08.07]与那家药房的残疾老板娘建立了一种真正称得上丑恶的关系。
[11:15.00]我想死。比任何时候都更想去死。我已经回不了头了。无论我做什么,
[11:26.03]无论我怎样做,都是徒劳的,只会丑上加丑,避了坑反而落了井。
[11:31.40]我已不配奢望骑自行车去瀑布游玩之类的事情,唯有在污秽的罪恶上不断堆叠卑劣的罪恶,
[11:40.26]让苦恼越来越多,越来越强烈。我想死,我只有死路一条,
[11:48.10]苟活下去便是万恶之根源。——尽管我仿佛钻进了牛角尖,无论如何都摆脱不掉这种念头,
[11:56.08]却依旧身不由己地频频往返于公寓与药房之间,活脱脱一副半狂半疯的模样。
[12:02.81]无论我怎样拼命工作,由于药物用量也随之增大,
[12:08.92]积欠的药费已经高得吓人。老板娘每次看到我就会眼中泛泪,我自己也禁不住潸然泪下。
[12:21.69]地狱。我想到一个挣脱出地狱的最后手段。假使连这个方法也归于失败的话,
[12:31.29]我便只有勒颈上吊一条路了。我想赌一赌看这世上神明是否真的存在,于是抱定决心,
[12:38.52]写了封长信寄给老家的父亲,
[12:43.41]坦承自己的所有实情(有关女人的事,终究还是无法落笔)。
[12:53.44]不想结果更惨,我引颈期盼,左等右等却一直杳无音信。
[13:01.07]焦灼与不安反而更使我加大了用药剂量。
[13:08.27]今夜,索性一口气注射十针,然后跳进大河里,一了百了——就在我暗下决意的那天下午,
[13:19.00]“比目鱼”就像凭借恶魔的直觉嗅到了什么似的,带着堀木出现在我面前。
[13:26.92]“听说你咳血了?”
[13:32.80]堀木盘腿坐在我面前,问我。
[13:36.63]他脸上荡漾起一种我从未见过的充满柔情的微笑。
[13:41.29]那温煦柔善的微笑使我既感激又兴奋,我情不自禁地背过脸潸然泪下。
[13:52.35]仅仅因为他那温柔的微笑,我便被彻底击败,然后便被强行从这人世间沉埋。
[14:02.85]我被送上汽车。你必须先得住院治疗
[14:11.44],后续的事情交给我们来办就是了——“比目鱼”用平静的口吻规劝我
[14:17.02](那口吻平静得我甚至想用“慈悲满怀”来形容)。
[14:25.88]我俨然像一个毫无意志、毫无判断力的人,
[14:30.93]只知道嘤嘤啜泣,最终还是唯唯诺诺地听从他们两人的安排。
[14:37.54]连同由子在内,我们四人坐在汽车上颠簸了许久,
[14:45.25]直到四周天色有些昏暗的时候,才抵达一座位于森林中的大医院门口。
[14:53.20]我以为这是一所结核病疗养院。
[14:57.56]我接受了一名年轻医生极为温柔而周到的检查,
[15:06.54]“好了,你就在这里静养一阵子吧。”
[15:11.55]他略带腼腆地微笑着对我说,比目鱼”、堀木和由子
[15:18.10]撇下我一个人回去了。
[15:21.46]走之前由子递给我一个装有换洗衣服的包袱,
[15:27.19]又一声不响从腰带间取出注射器和没有用完的药塞给我。
[15:35.03]看来她还真的以为那是强精提欲的激素呢。
[15:41.36]“不,我已经不需要了。”
[15:45.25]这绝对是一件难得的事。拒绝别人的劝诱
[15:53.25]说是我生平以来唯一的一次,也一点不为过。
[16:01.19]我的不幸,是因为没有拒绝的能力,因此一旦别人劝诱,我便觉得假如拒绝的话,
[16:09.99]会在对方的心里和自己的心里都留下一道显而易见、永远也无法修补的裂痕。我已习惯畏服于这种恐惧。
[16:20.43]但当时,曾经令我疯狂渴求的吗啡,
[16:28.70]我却极其自然地拒绝了,或许是被由子那种“如神明般的无知”打动了吧。
[16:38.89]那一瞬间,我应该已经摆脱掉毒瘾的纠缠了吧?
[16:46.48]很快,我被那名挂着腼腆微笑的年轻医生领着,
[16:55.10]进入一栋病房,随即大门被哐啷一声上了锁。这里是疯人院。
[17:04.27]“到没有女人的地方去”,我在服用巴比妥后说出来的愚痴的呓语竟然奇妙地变成了现实
[17:13.22]这栋病房里全都是男性精神病患者,
[17:22.89]连看护也是男的,没有一个女人。
[17:28.51]如今我非但是一个罪人,还成了一个疯子。
[17:36.15]不,我绝对没有发疯!
[17:41.84]即使是瞬间片刻,我也不曾疯过。但是,听说所有疯子都会这样说自己的。
[17:57.13]换句话说,凡是被关进这所医院的人全是疯子,而没被关进来的则是正常人。
[18:06.35]我问神明:难道不抵抗也是罪过吗?
[18:13.84]面对堀木那不可思议的美丽微笑,我感激涕零,失去了判断,毫无反抗,坐上汽车
[18:25.28]被带进这里,从而变成了一个疯子。即使从这里出去,
[18:36.02]我还是会被人在额头烙上“疯子”的印记,不,是“废人”的印记。
[18:46.59]我已丧失做人的资格。
[18:51.65]我已经彻底变成一个非人了。